平成30年(ワ)1673 判決文概要

事件番号 平成31年(ワ) 1673
原告 佐々木亮・北周士
被告 肥後信嗣、他9人
訴額 660万円(33万円✕2人✕10人)
判決 200万円(10万円✕2人✕10人)

ささきりょう @ssk_ryo から引用

東京5次訴訟。判決文入手しました。全体的にシンプルな判決でした。以下、紹介します。
まず、判決は、
1)私と北さんが東京弁護士かに所属する弁護士であること
2)東京弁護士会会長が「朝鮮学校への適正な補助金を求める会長声明」を出したこと
3)被告らが私に懲戒請求したこと
4)私が「この懲戒請求は保守派の先生もひどいと言ってますよ」とツイートしたこと
5)このツイートに北さんが、ささき先生とは政治的意見は異なるがこの懲戒請求はひどいので損害賠償請求は認められるべきとツイートしたこと
6)この北さんのツイートに対し被告らが懲戒請求したこと
を、認定しました。
そして、裁判所は、被告らの上記3)と6)が不法行為にあたるかが検討する、としました。

まず、判断基準として平成19年最高裁判決を引用し、弁護士への懲戒請求が事実上又は法律上の根拠を欠く場合に不法行為になる場合があることを示したうえで、私へ懲戒請求は、私が弁護士会の役員でもなんでもないことや証拠から私が賛同した事実が認められないことから、「事実上の根拠を全く欠く」としました。
そして、被告らが私に懲戒理由があるか調査検討した形跡がないこと、むしろ「余命三年時事日記」と題するウェブサイトの記事を閲覧し、私の弁護士活動を調査することなく同じ書式で懲戒請求していることが認められるとして、通常人として普通の注意を払えば事実上の根拠を欠くと知ることができたのにあえてこれを行ったので不法行為責任を負うというべきである、としました。

次に北さんへの懲戒請求については、北さんは、私に対する懲戒請求は根拠がなく損賠が認められるべきと述べたものであるところ、実際に私への懲戒は事実上の根拠が全くないことに鑑みれば、北さんのツイートは批判的意見を述べただけのものである、としました。そうすると北さんのツイートは懲戒事由に該当せず、これに対する懲戒請求は事実上及び法律上の根拠を欠くことは明らかだ、としました。
そして、被告らは北さんの投稿を一読すれば何ら不当でないことを容易に認識し得る立場にあったのに、調査・検討せずに懲戒請求を行ったのは、通常人として普通の注意を払えば根拠のないことを知り得たのにあえて行ったものであるから不法行為に該当する、としました。
他方、被告らの主張についても判断しており、まず弁護士に対する懲戒請求は国民の正当な権利であるという主張に対しては、「請求者に恣意的な請求を許容したり、広く免責を与えたりする趣旨の規定ではない」とし、懲戒制度の趣旨目的に照らして相当性を欠く場合は違法行為になる、と断じました。
また、東弁会長声明が憲法89条違反だとする主張に対しては、かかる声明を発すること自体は憲法89条に違反することはないとし、さらに、弁護士会が個人情報を云々という主張に対しては、本件の結論を左右するものではないとしました。

最後に損害ですが、弁護士としての業務上又は社会的な信用を害されるなどして精神的苦痛を被ったものであるが、本件懲戒請求が根拠を欠くことは明白であることなど一切の事情を考慮すると被告1名あたり10万円が相当とし、原告らは弁護士だから弁護士費用は不要となりました。

以上です。損害論は、かなりざっくりで、なぜ10万円なのかは分かりませんが、不法行為の成立については短いながらもしっかり記載されており、非常にいい判決です。特に私への懲戒請求が事実上の根拠を「全く欠く」と強調している点が印象的でした。

おわり。