不法滞在の虚偽通報急増 入管、受け付け停止「強制送還」デマ【名古屋】

2015/12/24 朝日新聞 朝刊 26ページ 953文字

「在日コリアンは強制送還される」とのデマがインターネットで出回った問題で、法務省入国管理局に寄せられる不法滞在の通報メールが5月以降、前年の3倍以上に増えていることが分かった。同局は「デマによって、事実に基づかない通報が増えた」と認め、通報の受け付けを一時停止し、警察に相談した。
同局はホームページで情報を受け付けている。昨年度の通報メールは月平均で約460件だったが、今年は5月に1821件、6月に1562件と急増。集計中の7~9月はさらに増加傾向で、同局総務課は「3カ月間で1万件を超す可能性がある」。在日コリアンらに関する情報が大幅に増えたという。
今年、ネット上では「7月9日以降、在日は不法滞在者になり、強制送還される」とのデマが広がった。「朝鮮人を通報して報償金をもらおう」といった書き込みまであった。
同局は10月末、サーバーへの影響を懸念して情報の受け付けを停止。同一人物が大量にメールを送りつけた形跡もあり、こうしたメールを排除する対策を取った上で再開する方針という。11月には業務妨害など刑事事件にあたる可能性がないか警察に相談した。
同局総務課は「外国人を中傷するメールは通報システムの目的にそぐわず、まったく遺憾だ」としている。
■「密告の仕組み、廃止すべきだ」
入国管理局の通報メールは2004年に導入された。不法滞在と「思われる」外国人の情報を求め、匿名通報も認めている。日本弁護士連合会は翌05年、法相あてに意見書を提出。「外国人への偏見や差別を助長する」などと中止を求めていた。
在日外国人の人権問題に詳しい田中宏・一橋大学名誉教授は「密告を奨励するような仕組みが、『朝鮮人を追放しろ』などのヘイトスピーチを繰り返す者に『政府のお墨付きがある』と感じさせている。停止するのではなく、廃止すべきだ」と話している。
(黄テツ)
◆キーワード
<「強制送還」デマ> 戦後に日本国籍を失った在日コリアンとその子孫は、自治体発行の「外国人登録証明書」から、国発行の「特別永住者証明書」に切り替えることになった。このうち約15万人の期限が7月8日だったことが「7月9日以降、強制送還」のデマにつながったとみられる。
手続き未了に罰則はあるが、法が定めた退去強制の事由には当たらない。